- 産後うつかな?と不安になった産後
- 母親版・思春期「マトレセンス」
- 「大丈夫だよ」「普通だよ」が欲しかった
- 母親も、パートナーも、その周りの人も、みんなが知っておくべき
- マトレセンス中のお母さん、そしてその周りの方々へ
- 悲しい事件の背景を想像すること
- おわりに
*こちらの内容は音声でもお聴きいただけます。
産後うつかな?と不安になった産後
もうすぐ産後1年なる私。振り返ってみると、産後1ヶ月は特に情緒が不安定で、初めてのことに戸惑い、我が子を過剰なほどに心配し、ハラハラしっぱな毎日でした。
産後のママの状態について、
「ホルモンの関係で旦那さんが嫌になる」とか「子供を守らなくてはいけないという本能から過敏になる」
という一般的な?情報は持っていたものの、いざ産後を迎えるとイメージとは違う感覚に戸惑いました。具体的にいうと、
- 過剰なくらい不安になる
- 母親になる自信がなくなる
- 母親になる心構えができていない自分に罪悪感を覚える
- 赤ちゃんを愛おしいと思えない
- 赤ちゃんの望んでいることが分からず余裕がなくなる
- 母親に向いていないかもしれないと思えてくる
など。(妊娠前からあった症状もあります)
SNSをひらけば幸せそうなマタニティ姿のみなさん、産後のママさんが大勢目に入って、「自分はおかしいんじゃないか」と思った日も少なくありませんでした。(かくゆう私もそんな風に見えていたかもしれませんが)
でも実際は不安だらけ。出産した病院では産前産後の教科書的な物を購入したのですがそこには
◾︎心の変化
赤ちゃんを迎え、喜びや安心感の反面、疲労や育児への緊張感、ホルモンバランスの急激な変化によって、気分が不安定になりやすい時期です
まずは、体を休めることが大切です。育児の合間に、少しずつでも休息と睡眠をとりましょう。
(2週間以上その状態が続けば診察を受けましょう)
と記載がありました。
確かに、書いてある通りなんです。でもおかしいのは「身体を休めていても」不安に感じること。そして3週間経つ頃には「魔の3週間」と言われる赤ちゃんが泣き続ける日々が待っているのでまたメンタルをやられてしまう。だから2週間で落ち着かなくて、「私、診察受けた方がいいのかな?」と思ったこともありました。かといって四六時中不安な訳ではなく、人と話したり、赤ちゃんの寝顔を見たり、甘いものを頬張ったりするときは気分が良いし、束の間の自分時間を持てると最高に幸せだな〜と感じるのです。
母親版・思春期「マトレセンス」
うつほどではないけど、覚悟していた以上に心配で不安で自信がなくて不安定だったあの時期はなんだったのだろう?と先日改めて考えていたところ、ひとつの動画に出会いました。
妊娠中や産後の母親を対象にしている精神科医であるアレクサンドラ氏。多くの相談を受ける中である発見があったといいます。(以下、意訳です)
母親になることの幻想
多くの女性が 「育児を楽しめない」と電話をかけてきます。しかし彼女らは産後うつではなく正常な状態です。それを伝えても彼女らは安心することができません。なぜなら母親とは「幸せに満ちていて、赤ん坊の求めることが理解できる存在」だと期待しているからです。
母親になるための移行期間
彼女らに安心してもらうため、それが正常だと言える方法を探しましたが医療用語には見つかりませんでした。病気ではないからです。2年かかって人類学の論文で発見しました。
「マトレセンス(母への移行期)」です。思春期「アドレセンス」と似ているのは偶然ではありません。どちらも身体やホルモンによって感情のあり方や世の中の適応の仕方が大きく変わる時期をさします。
病気ではないことを理解する
マトレセンスは病気ではないけれど、医者が人々にそのように教育しないために産後うつと混同されることがあります。もしマトレセンスが自然な過程だと知っていたら、彼女らはこれほどに孤独感や罪悪感などを感じることはないでしょう。産後うつの割合も下げることができると思っています。
対話による治療を
このマトレセンスの捉え方を変えるのであれば女性たちは自分たちのマトレセンスについて他のお母さんたちや友人と話してみてください。パートナーがいればぜひ話してください。そうすることで周りもサポートしやすくなります。
自分のためだけでなく、子供のためにもなる
マトラセンスを理解して語ることは人間関係を良好に保つだけではありません。自分自身のアイデンティティを切り離して残すことは、子供にも自分のアイデンティティを育むための余地を与えるということになるのです。
「大丈夫だよ」「普通だよ」が欲しかった
動画を観て「あの時の私の状態はまさに”マトレセンス”だったんだ!と今更ながらに安心しました。アレクサンドラ氏も述べているように、予め知っていればあれほど罪悪感を感じたり落ち込むことはなかったかもしれません。ググっても出てくる情報は「ホルモンバランスの変化によるもの」でそれはそれで「私のホルモンバランス崩れすぎてて、、もしかしてうつ?」と不安になってしまっていたのを思い出します。私だけかもしれませんが、産後かけて欲しかった言葉は本当にシンプルで
「大丈夫、大丈夫」「それが普通だよ」
という言葉。
実は病院でも不安定な様子を相談したことがあるのですが、その時は「精神科の先生を紹介しましょうか?」と言われ、逆に落ち込んだのを覚えています。受診して「あなたは産後うつではない」と言われたらそれはそれで安心したかもしれませんが、欲しかったのは
「お母さんになる過程はみんなそうですよ。大丈夫です、少しずつお母さんになっていくから」
という言葉だったんだなあと今となっては思います。
母親も、パートナーも、その周りの人も、みんなが知っておくべき
思春期、もう20年ほど前になりますが、あんなに荒れ果てた時期はなかったのではないかというくらい、何かにつけてイライラしたり、物に当たったり(タンスに穴を開けたこともありましたw)、一つニキビが治ったと思ったら翌日にはまたひとつ。(大切な日に限って鼻の下にぽつっとできるんですよね)息子もあんな時期が来るのかなと思うと今からハラハラしてしまいます。
それと同じ状態が、妊娠期〜産後の母親にも起こっている。産後のお母さんと話しているとよく「気持ちがついていかない」というセリフを耳にしますが、まさにその状態ですよね。ついていかなくて当然なのです。
こういったことを、母親だけでなくパートナーもその周りにいる人も、いや人類みんなが知っておくべきだと思います。「思春期が2回来るんだよ」って知ってたら心構えもサポートの仕方も工夫ができますよね。
マトレセンス中のお母さん、そしてその周りの方々へ
今まさにマトレセンスの真っ只中にいるお母さんがいらっしゃったら、情緒不安定で当然だし、余裕がなくて当然で、それは時間とともに少しずつ剥がれていくものだから抗わずに時間が過ぎるのをぼーっと待っていてほしいな、と思います。
そして周りの方々へ。彼女が産前と様子が違うのは当然のことであって、悲しいことでもおかしなことでもなんでもありません。自分が思春期をどう乗り越えたか思い出してみてください。何もできなかったのではないでしょうか?溢れる感情を抑えることができず親や物に当たったり、訳も分からず涙が出たり、家出してみたくなったり。(思春期らしい思春期がなかった方もいるかもしれませんが...)同じ状態が彼女の中でも起こっています。
ここは一つ、今まで以上に温かい目で見守り、できることはサポートしてあげてほしいなと思います。
悲しい事件の背景を想像すること
また、もう一つ別の観点で思うことがあります。
もしマトレセンスを知っていたら、母親に誰でも急になれる訳ではないと知っていたら、物事の捉え方や見方も大きく変わるのではないでしょうか。
今も昔も、悲しい事件があとを絶ちません。先日もシェアしましたが、
本当にそう思います。こういう事件が起こるたびに「なんて女だ」とか「鬼親だ」というコメントや意見はもういらない。小さい頃から広範囲の性教育をするべきだと思う。って言ってるだけじゃ始まらないからまずは自治体の取り組み調べて提案書出してみよう。 https://t.co/6RXtu6BEHC
— Hiromi Sako / 酒匂ひろみ (@_hiromivoice_) 2021年1月28日
このような辛い事件。もちろん誰かを殺めることは許されることではありません。けれどたった一人で荒れ狂うような感情と身体の変化に日々格闘し、サポートも受けられないような状況で、意識絶え絶えに出産する中で正しい判断をすることは容易ではありません。
「鬼親だ」「最低」「人として終わっている」
などと罵声を浴びせる前に、想像することがたくさんあるように思います。
おわりに
世の中には分からないことだらけ
ノーベル化学賞を受賞された吉野彰さんが、記者会見で”世の中でわかっていることはほんの数パーセントに過ぎない(だからチャンスはたくさんある)”というようなことを話されていて(私の記憶が正しければ汗)今でもとても心に残っているのですが、本当にそうだなと思うようになったのは、妊娠・出産・育児を通してからでした。
悪阻がなぜ起こるかだって明確には分かっていないし、赤ちゃんが無事に産まれるか否かも、誰にも保証はできません。産まれてきた子供がどのように育つかだって、マニュアルもなければ何が正しいかもない。世の中の大抵のことはわからないんだなあと感じる毎日です。だからこそ適度に適当にやっていくのも大切だなと思う日々。
「知っている」ことが安心に繋がる
でも先日、初めて「マトレセンス 」という言葉に出会い、産後に感じた多くの不思議は合点しました。また、この言葉に出会ったからこそどれだけ自分が産後がんばってきたのかを改めて感じ、自分で自分を褒めたたえたくなりましたし、もっと言うなれば私の母がどれだけがんばってきたか、も感じるのでありました。自分にも、自分の母親にも、周りのお母さん達に対しても、感謝といたわりの感情がこれまで以上に溢れてきました。
ホルモンバランスの関係、とか疲れなどの抽象的な言葉ではなく(それも正しいと思うのですが)、母親になる移行期間中なのだと予め知っていれば、もう少し落ち着いて対応できたかもしれないと思います。私だけでなく夫や両親を含めて。
当たり前のことを当たり前と思わない
これだけ時代が進み、誰でもスマホ一つで仕事ができるようになり(チャンスがあり)、国境を越えていつでも世界と繋がれる便利な世の中になったけれども、妊娠や出産、母乳や育児に関してはまだまだ知られていないこと、理解されていないことが多いのではないかと感じます。
それだけ、人が産まれることが自然で、出産したら母親になっていくことが当然で、親になれば育児はできていくものだと思われているのだと思います。
母親になる過程で誰しもが味わうであろう過渡期「マトラセンス」、ググっても全然情報出てこない。母乳の文献も本当に僅かなんだそう。それだけ妊娠〜出産〜育児が当たり前で重視されてこなかったんだろうなあ...いきなり大人になれないようにいきなり母にも父にもなれないからこの辺の教育って大事
— Hiromi Sako / 酒匂ひろみ (@_hiromivoice_) 2021年1月28日
でも現実はそんなにスムーズに行きません。
スムーズにいかないんだよ、という事実だけでも知っておけば、小さな小さな赤ちゃんを抱いているお母さんの自転車を蹴って「邪魔なんだよ」と吐き捨てる人も、生後間もない赤ちゃんを置いて働きに出るシングルマザーに対して「信じられない」と批判する人も、少なからず減るのではないかと思う今日この頃です。
それでは今日はこの辺で終わりたいと思います。また次回、お会いしましょう!さようなら。
ある出産したばかりの女性が「私は育児が苦手で楽しめません 私は産後うつなのでしょうか?」 と電話してきました。私は産後うつの確認をしますが、診断結果はNO。それでも彼女は安心しません。彼女は言います。
「母になれば 満たされて 幸せな気持ちになると思っていました。本能的に 何をしたらいいか 自然にわかり、常に赤ちゃんを第一に 考えるだろうと思っていました」
と。
これは母への移行がどのようなものかについての非現実的な期待です。多くの 人類学から見る母親への移母この動画にもっと早く出会っていれば、 もう少し楽に育児に取り組めたの